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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1766号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人長野潔の上告趣意は末尾添附別紙記載の通りであり、これに対する当裁判所の判断は次の如くである。

第一点に対する判断

論旨の主張するように原判決の判示事実が原判決挙示の証拠たる第一回の予審訊問調書中に引用されている司法警察官意見書記載の犯罪事実と分離しては証明できないと仮定すれば所論の通り原判決は違法のものとなるであろう。しかし右第一回予審訊問調書によれば判示第一事実の納屋が近藤武市の所有であることは、被告人の供述中に「屋敷の一角へ同人(武市)を住居さし納屋一つを同人へ遣るか売るかしたのです。」との記載により、又第二事実の納屋が高井秀一の所有であることは、予審判事の訊問として「高井秀一の納屋へも付けたのか」に対し被告人は、「左様云々」とこれを認めているところからこれを知ることができる。又納屋の所在場所、構造については、原判決挙示の証拠たる予審判事の検証調書によって明らかである。原判決は、右検証調書により焼燬の部位程度のみを証明するかに見えるが必ずしもそのように狭く解する必要はなく、これに関連した事項も証明せられるとの趣旨と解するのを相当とし敢えて予審判事の第一回訊問調書引用の司法警察官意見書の記載を俟つまでもない。又日時については、必ずしも判決挙示の証拠による必要のないことは当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第一二〇五号同二三年一二月一六日第一小法廷判決)し、被告人の経歴も犯罪構成要件に属しないところであるから証拠によって説明する必要はない。従って判示犯罪事実は司法警察官意見書の記載を俟つまでもなく予審判事に対する被告人の第一回供述調書等によって認められ得るのである。されば論旨は理由がない。

第二点に対する判断

原審の採用した予審判事の訊問調書における被告人の自白が所論の様な違法のものであると認むべき資料は何もないし、又右自白を採ったことは何ら経験則又は論理の法則に違反しない。論旨は原判決の採用しない証言により自白の真実性を疑い或は納屋の構造についての証拠に齟齬がある等主張するけれども論旨第一点に記載したとおり予審判事の検証調書の記載によれば判示犯罪事実と証拠との間に齟齬はなく結局事実誤認の主張たるに過ぎないので採用に値しない。

第三点に対する判断

原判決判示第一事実について所論検証調書における棟木等が新しく補修してあるという記載の外に取り替えられたものを除く柱の露出面全面は炭化しているという記載を綜合すれば判示の焼燬の部位程度を推認するに足るのである。又第二事実の納屋については敢えて右調書添附の写真を俟たなくても全焼したことを推認できる記載がある。それ故原判決はこの点について理由不備はない。しかも訊問調書添附の図面等を除いても右供述が独立性がある場合にはこの部分のみを証拠調をしてそれを証拠とすることを妨げないことについては当裁判所の判例とするところであり(昭和二四年(れ)第二一四五号同年一二月一三日第三小法廷判決判例集第三巻一二号一九八一頁)、この理は検証調書の場合にも異るものでない。

第四点に対する判断

原審は所論如露について証拠調をして意見弁解をきいているのであるから原審が右如露を以って被告人が放火の手段に供したと認定したことに何ら違法はなく予審判事がこれを被告人に示したか否かは重要ではない。

第五点に対する判断

検察官が任意の捜査として鑑定の嘱託をしたものは他に何らかの証拠能力を失わせるような事情のある場合を除いて証拠能力がないと論ずることはできない。又水差の鉱物性油の鑑定を求めただけでは未だ所論鑑定書を作成した鑑定人の喚問を請求したものとはいい得ない。これを釈明しなかったことについても原審の措置を違法とすることはできないのである。論旨は何れも理由がない。

よって旧刑事訴訟法四四六条に従って主文の如く判決する。

以上は関与裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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